NASAによるホルムズ海峡の衛星写真
NASAによるホルムズ海峡の衛星写真(MODIS Land Rapid Response Team, NASA GSFC)

2026年2月、米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を機に、世界のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡の船舶通航が激減しています。原油輸入の約9割を中東に依存する日本を、国際アナリストは「最も大きな影響を受ける国」と指摘しています。医療用プラスチック製品の原料となるナフサの供給不安も浮上するなか、日本のエネルギー構造の脆弱性と、再生可能エネルギーへの転換の必要性が改めて問われています。

ライターについて

山根 那津子

山根那津子 natsuko yamane / コンテンツライター 読書、スイミング、テニスが好き。人権について真剣に考えています。子どもたち、次の世代への責任を果たしたい。友達と笑ってビールを飲んでよく寝ればだいたい元気。

米イスラエルのイラン攻撃──ホルムズ海峡で何が起きているのか

2026年2月28日に始まった米国とイスラエル政府によるイランへの大規模軍事攻撃以来、中東の戦火が拡大を続けています。イラン保健省によるとイランでの死者数は2,000人を超え(3月29日時点)、イランの報復によってもまた多数の死傷者が発生しています。

中東情勢によって、化石燃料(石油・ガス*・LNG)などの輸送の要所であるホルムズ海峡の通航状況が悪化し、数十隻のタンカーがペルシャ湾に取り残され、合計で少なくとも210億リットルの石油が戦火に晒されていることがわかっています(2026年3月12日時点)。グリーンピース・ドイツは、一度でも油漏れが発生すれば、海洋環境に回復不能なダメージを与えかねないと警告しています。

*一般に「天然ガス」と呼称されますが、グリーンピースでは表現が化石燃料という実体と乖離していると考え、この表記を使用していません

ホルムズ海峡とは? 世界のエネルギーを握るチョークポイント

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾からオマーン湾を繋ぐ幅約33キロメートルの海峡です。古くから貿易の重要な役割を果たしており、代替ルートの少ない「チョークポイント(世界の海上航路中の狭い水路)」と呼ばれています。

ホルムズ海峡(赤い円で示される)とそのと迂回路
ホルムズ海峡(赤い円で示される)とそのと迂回路(出典:IEA「Alternative routes(CC BY 4.0)」を和訳)

ホルムズ海峡は、主要な産油国であるイラン、イラク、クウェート、カタール、バーレーンなどの国から化石燃料を輸入するための、ほぼ唯一の海上航路です。サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)には代替パイプラインが存在しますが、その輸送量は限定的です。

世界の海上石油貿易の約25%がホルムズ海峡を通っています。そして、そのうちの約5分の4がアジアの国々への輸出です。

3月末時点、イラン政府は⁠「当局との調整の下、非敵対的な船舶は安全に航行できるが、侵略当事者や侵略加担者の船舶は航行できない」と発表していますが、通航数は激減した状態です。

ホルムズ海峡を通航する船舶数
ホルムズ海峡を通航する船舶数(出典:公益財団法人中東調査会、IMF PortWatchをもとに作成)

日本は世界で最もホルムズ海峡に依存する国

かねてから、国際的なアナリストは、ホルムズ海峡危機の最も大きな影響を受ける国は日本であると指摘していました。

その理由は、現在も日本の一次エネルギーの化石燃料依存度が80パーセントを超える高水準で推移しており、さらには、中東産の化石燃料に強く依存していることがあげられます。

もともと中東の原油への依存度が高かった日本ですが、2022年からは欧米諸国と足並みを揃え、ロシアからの原油輸入を控えたため、現在の原油の中東依存度は約94パーセントホルムズ海峡経由の原油依存度は90パーセントにも上ります。

2022年の日本の原油およびコンデンセート輸入先別内訳
2022年の日本の原油およびコンデンセート輸入先別内訳、ここからロシア産の原油がさらに減少した(出典:U.S. Energy Information Administration、Vortexa「Figure8. Japan’s crude oil and condensate imports by source, 2022)」を和訳)

他国のホルムズ海峡経由の原油への依存度を見ると、韓国は約68パーセント、インドは近年湾岸諸国からの輸入割合を減らして約46パーセント(2025年、ホルムズ海峡経由に限らない)。中国では45パーセントと、いずれも高いものの日本ほど強く依存する国は他にありません。

石油不足による医療現場の危機──ナフサ・プラスチック供給の現在

ホルムズ海峡の影響はエネルギー以外にも深刻な事態を生み出しています。例えば、プラスチックや合成繊維の原料となるナフサの調達難で発生する医療の危機です。

ナフサとは?

石油製品のひとつで、石油化学基礎製品の原料です。人工透析用チューブや点滴バッグ、使い捨ての注射器、医療用手袋、マスク、ガウン、プラスチック容器など、医療の現場に欠かせない医療・衛生製品の多くがナフサを原料としています。

資源エネルギー庁によると、ナフサを原料とする製品の在庫は国内需要の約2カ月分にとどまりますが、国内化学メーカーが、すでにナフサ温存のためのエチレン減産に入ったことが報じられています

注射器や輸液バッグ、カテーテルといった医療用製品の供給が滞ることになれば、人の命と健康への破壊的な影響を避けることはできません。

ガソリン補助金は本当に私たちを守っているのか

ホルムズ海峡通航への支障は、中東からの原油輸入に頼る日本のエネルギー構造の危うさを可視化させました。日本政府が現在行っている備蓄放出やガソリン補助金の支給は、長期的な視点で見れば化石燃料からの脱却を遅らせる、現状維持の策となっています。

化石燃料の使用抑制の呼びかけ、代替手段の提示、公共交通機関の無償化や週休3日制の導入といった対応をしている他国と比較しても、市民の命や生活を優先しているとはいえません。

また、オーストラリアニュージーランドでは燃料価格の高騰を受けて、電気自動車の販売が増えています。一方で、日本政府が下したガソリン補助金という決断では、脱炭素を妨げる恐れがあるだけでなく、より良いエネルギーのあり方への変化を遅らせることにもなりかねないのです。

日本が秘める再エネのポテンシャル

エネルギー安全保障を脅かす化石燃料依存から日本が抜け出す解決策、その答えは地産地消型である再生可能エネルギーにあります。

再エネは海外情勢の影響をほぼ受けず、輸送ルートへの支障で供給が止まることもありません。さらに、現在最も安価かつ迅速に開発できる家計に優しいエネルギーです。

茨城県神栖市の水田でソーラーシェアリング
茨城県神栖市の水田でソーラーシェアリング(2017年6月17日)写真:By Σ64 – Own work, CC BY 3.0

日本に非常に高い再エネのポテンシャルがあることはすでに専門家によって示されています。例えば、太陽光発電は住宅など建物の屋根への設置や、ソーラーシェアリングでの農地利用など、膨大な導入可能量があります。コストも継続的に低下していて、2035年度には2022年度比で約半額になる見通しです。

さらに、ペロブスカイトなど、次世代型太陽電池の普及が進むことで、ビルの壁面や窓のような、これまで設置が難しかった場所も活用できるようになります。

また、四方を海に囲まれる日本は年間9,000テラワットもの洋上風力のポテンシャルを持つと試算されており、その一部を有効に活用できれば、国内の電力需要を十分に賄える計算です。

今こそ政策の転換で暮らしの安心を

政府が掲げる第7次エネルギー基本計画では、原子力と化石燃料の役割が依然として大きな比重を占めています。再エネ導入のために日本が乗り越えるべき課題は技術よりも政策です。

グリーンピース・ジャパンは2026年4月1日に、中東情勢の悪化によるエネルギー危機と関連製品の価格高騰について、日本政府に脱化石燃料依存のための早急なシステム転換を求める声明を発表しました。

▶︎声明はこちらからお読みいただけます

再エネ導入の加速とともに、使い捨てのビジネスモデルからの脱却をはじめとした使用エネルギー自体を縮小する省エネの取り組みも重要です。グリーンピース・ジャパンは、エネルギー効率の向上と、地域共生型の再エネ移行を進めるプロジェクトを進めています。

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