ゼロから学ぶ原発問題

2011年3月11日に起きた、東京電力福島第一原発事故。この事故は、原子力が一度暴走すれば人の手には負えないこと、人間も自然環境も傷つけ、その被害は広範囲・長期にわたることを、私たちに日々示し続けています。被害者の方たちが抱える困難、失われた自然や生物多様性、すべての原発立地地域で起きている分断は、原発の電気を使い続けてきた私たちみんなに責任のある問題です。いつ次の事故が起きるかわからない、使い終わった放射性廃棄物をどう処理すればよいのかもわからない原発は、未来を生きる子どもたちにとって負担にしかなりません。すべての原発を止め、持続可能な自然エネルギー100%の社会へ。問題を知り、変えるための行動が、100年先も残したい地球へとつながります。

私たちの暮らしと原子力発電

原子力発電は危険を伴うものーー東京電力福島第一原子力発電所事故(以下東電福島原発事故)を経て、多くの人がそのように認識しているのではないでしょうか。地震国・火山国である日本では、いつ次の事故が起きてもおかしくありません。にも関わらず、原子力発電所(以下原発)の稼働は続けられ、新たな建設すら進められています。日本政府は原発について、依存度をできるだけ低減するという方針を出す一方で、温暖化対策と位置付けて重要視しています。

東電福島原発事故発生以降、全国の原発は順次停止し、2014年には日本の電力における原子力の割合は0%になりました。しかし今は、事故の後に作られた新規制基準のもと徐々に再稼働しています。

日本の電力消費量は、1970年代からずっと増え続けています。今も昔も電力を消費する最大の部門は産業部門です。電気の消費の約7割を産業、業務、運輸が使っています。わたしたちが仕事で使っている電気を自然エネルギーに変えること、わたしたちが家庭で使っている電気を自然エネルギーに変えることが、とても重要です。

資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」をもとに作成
資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」をもとに作成

原子力発電のしくみ

そもそも、原子力発電とはどのような発電方法なのでしょうか。

原子力発電は、燃料となるウランを核分裂させることで熱エネルギーを得て水を沸かし、その蒸気の力で蒸気タービンを回転させて電気を起こします。火力発電と電気を起こすしくみは同じです。タービンを回し終えた蒸気は海水で冷やされて水になり、原子炉に戻されます。

ウラン燃料は、天然ウランを採掘・核分裂しやすいウランだけを取り出し濃縮する加工をして作られています。使った後は、使用済み核燃料になります。

原子力発電の問題点

問題点1:原発事故の危険性

原子力発電は、ウランの核分裂反応を利用します。その原理は原子力爆弾と同じです。爆弾は核分裂を短時間に大きく引き起こし、原子力発電は核分裂をコントロールして扱おうとします。ウランが核分裂する時には、熱とともにさまざまな放射性物質が作られます(=核分裂生成物)。東電福島原発事故の例でもわかるように、大きな事故が起きれば、閉じ込められているはずの放射性物質が外へ漏れ出します。

放射線や放射性物質には、これ以下であれば安全という明確な値はありません。放射線はDNAを傷つけます。長期的な影響として、がんや白血病になるリスクが高まります。

原発は通常運転でもこのような放射性物質を少しずつ外に出していますが、大規模な事故で大量に出してしまう危険性も常にあります。日本は活断層を多く持つ島国で、地震と津波のリスクが高いにも関わらず、原発は海水を多く使うことから海岸沿いに建設されています。地震や津波、加えて人為的なミスも含め、いつ次の大事故が起こるかわかりません。

ウラン燃料をつくるためのウラン鉱石を掘り出す施設や、ウランを濃縮する施設、燃料棒を作る施設、原発、原発の使用済み核燃料を再処理する施設、放射性廃棄物を処理する施設……これら原発のライフサイクルのすべてで、放射性廃棄物を生み、放射線事故の危険性があります。

福島第一原発事故。2011年3月14日撮影
福島第一原発事故。2011年3月14日撮影

問題点2:処分場所がない核のごみ「放射性廃棄物」

日本では、1960年代から原発が利用されてきました。運転を始めた以上、逃れることができないのが、放射性廃棄物の問題です。原発の燃料は、使用後には使用済み核燃料となります。日本は、この使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し再利用する計画を進めてきました。再処理した後の廃液をガラスで固めたものが「ガラス固化体」と呼ばれる「高レベル放射性廃棄物」です。

現在、数千本もの「ガラス固化体」が青森県六ヶ所村と茨城県東海村の施設で一時保管されています。高レベル放射性廃棄物が安全なレベルになるには、数万年かかります。日本にはまだ最終処分場がありません。

また、使用済み核燃料は、全国の各原発施設内の貯蔵プールなどに保管されています。全国の原発で、今後数年で燃料プールが満杯になる見込みです。その後使用済み核燃料をどうするのか、計画の目処はたっていません。

ほかにも、ライフサイクルを通して、燃料の制御棒やポンプ、施設のコンクリート、金属、手袋など消耗品、廃液などさまざまな低レベル放射性廃棄物が出ます。膨大な放射性廃棄物を今後どう管理しどう処理していくのか。数万年単位で放射線を出し続ける放射性廃棄物を含み、これ以上増やさないためにも、まず、原発を止める必要があります。

原子力発電環境整備機構、<a href='https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/006_03_00.pdf' target='_blank' rel='noreferrer'>資源エネルギー庁</a>資料を元に作成
原子力発電環境整備機構、資源エネルギー庁資料を元に作成

問題点3:通常時も放射性物質を放出、労働者の被ばくが前提

原子力で発電するために、驚くほどたくさんの関連施設が存在しています。原発の燃料となるウランを掘り出す鉱山から、使用済み核燃料を保管する施設まで、すべての場所で労働する多くの人たちが、放射線を浴びながら働いています。原発での被ばく労働により、白血病が労災認定された例もあります。

問題点4:海の生態系に悪影響

日本ではすべての原発が海岸沿いに建てられています。これは、海水を冷却に使っているためです。この冷却水による海洋生態系への弊害について、これまで多くの海洋学者や学会が指摘し、政府や電力会社宛てに、複数回にわたって要望書を提出してきました。

まず直接の被害として、海水が原発に取り込まれる時、プランクトンや魚介類の卵などが死滅しています。冷却水はもとの海水温よりも7度程度高くなって海に戻されるため、周辺海域に温暖化をもたらします。さらに、原発内を清掃した水など、放射性物質を含む排水も海に流されており、海の生き物に影響することが懸念されています。

また新たな原発建設工事は、海底のボーリング調査や海岸の埋め立てなどにより生態系を破壊します。中国電力が建設を計画する上関原発建設予定地、山口県上関町の田ノ浦海岸は、生物多様性が極めて豊かな希少動物の宝庫です。原発の建設工事を止めるよう、周辺の住民や市民団体が反対運動を続けています。

原発建設予定地の上関の海を唯一の生息地とするカンムリウミスズメ。世界に5,000羽しかいないといわれる(撮影:泊寿彦)
原発建設予定地の上関の海を唯一の生息地とするカンムリウミスズメ。世界に5,000羽しかいないといわれる(撮影:泊寿彦)

問題点5:核にアクセスしやすくなり「核拡散」の危険性が高まる

原発の燃料のウランは、原爆の材料でもあります。原爆には「高濃縮ウラン」が使われますが、原発の燃料のウランからも作れます。また、日本では、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出していますが、「プルトニウム」も原爆の材料になります。核兵器を作ろうとする国やテロリストが、ウランやプルトニウムを奪取しようとする可能性があります。

2019年末時点で、日本の保有するプルトニウム量は45.5トン。国内では青森県六ヶ所村再処理工場などに8.9トンを、再処理を委託したイギリスとフランスに合わせて36.6トンを保有しています。プルトニウムは6キロもあれば、核爆弾を1個作ることができます。つまり、45.5トンは核爆弾7,000発以上に匹敵します。そのため、アメリカなどを中心に国際社会から懸念が表明されています。日本は、プルトニウムを原発で燃料として使用し減らしていくとしていますが、計画は進んでいません。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す六ヶ所村再処理工場は、事故や故障が相次ぎ、稼働は延期され続けています。その危険性から、市民の反対運動も続いています。

日本の六ヶ所村再処理工場の航空写真。2002年11月撮影
日本の六ヶ所村再処理工場の航空写真。2002年11月撮影

問題点6:もっともコストの高い電源

原発は、建設費用に数千億円がかかりますが、立地自治体への補助金、反対世論を抑えるための広報費などにも莫大なコストがかかります。また、東電福島原発事故以降に追加された安全対策の費用は、原発1カ所で数千億円にのぼるケースもあることがわかっています。さらに、東電福島第一原発事故の被害総額は81兆円という試算もあります(日本経済研究センター)。

従来の日本政府による発電コスト計算は、こうした建設費用や事故被害額、安全対策費用が低く見積もられています。稼働率も現実に即していません。

また、原子力発電は、発電時の熱効率の悪い発電方法です。熱効率とは発生した熱のうちどれくらいが電気になるかという数値ですが、火力発電で約40%、原発は33~34%です。さらに発生した熱の多くが温排水として捨てられています。

東電福島第一原発。事故対応は今も続いている。2018年撮影
東電福島第一原発。事故対応は今も続いている。2018年撮影

問題点7:原発は温暖化対策にはならない

日本政府、経産省は、CO2削減のために原発の再稼働を進めています。核分裂の熱を利用する原発は、発電時にCO2を排出しません。しかし原発は温暖化対策になりません。

原発は、燃料を作るにも使用後も工程が多く、そのすべての段階で、エネルギーが使われてCO2が発生します。各工程間の輸送でもCO2を排出します。

危険を伴う原子力は、立地から、管理、運営、核のごみの後始末まで、お金や人、政治的リソースをたくさん使います。その分、地球温暖化の抜本的解決策である自然エネルギー導入や省エネ推進が遅れてしまいます。

原発は、トラブル、不祥事、裁判、自然災害などで計画通りの運転ができないことがよくあります。そのたびに、不足分を補うために火力発電を動かすことになります。また、トラブルがなくても、約1年ごとに、定期点検を行うために、3カ月程度運転を停止します。その間のバックアップのために、原発が増えるとともに火力発電も増えてしまいました。

何よりも、通常運転でも放射能を放出し、被ばく労働者を生み、使用済み核燃料の処分方法も場所も決まっていない原発に、持続可能性はありません。

現在も稼働が続く川内原発
現在も稼働が続く川内原発

世界における原発事故の実態

1979年 アメリカ・スリーマイル島原発事故:国際評価レベル5

1979年3月28日、アメリカ北東部ペンシルべニア州スリーマイル島の原発で起きた世界初のメルトダウン事故。トラブルとミスが重なり核燃料の冷却ができなくなり、燃料が溶け落ちました。放射能が放出され、周辺自治体の住民が避難しました。溶け落ちた燃料に金属などがまざった「燃料デブリ」の一部は、いまだ取り出されていません。

原発事故・トラブルの深刻度を示す国際的な指標「国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)」では、レベル5の事故となっています。

アメリカ北東部ペンシルべニア州、スリーマイル島原子力発電所
アメリカ北東部ペンシルべニア州、スリーマイル島原子力発電所

1986年 旧ソ連・チェルノブイリ原発事故:国際評価レベル7

1986年4月26日、旧ソ連のチェルノブイリ原発で起きた原子力史上最悪の事故。国連は「人類の歴史上もっとも深刻な環境破壊」と称しています。原子炉が暴走して爆発、大量の放射能が放出され、北半球全体を汚染しました。ソ連が開発した原子炉の安全設計上の問題と、運転員の規則違反や、運転管理上の問題などが重なって起きた大事故でした。原発から半径30キロ圏は今でも立ち入り禁止です。汚染も続いており、今でも500万人もの人々が、汚染された土地での生活を余儀なくされています。

INES評価では、もっとも深刻な事故・レベル7とされています。

原子炉は現在セメントの石棺で塞がれているが、中は放射性物質が充満している。新しい巨大な囲いが作られているがそれも耐久年数は100年といわれる
原子炉は現在セメントの石棺で塞がれているが、中は放射性物質が充満している。新しい巨大な囲いが作られているがそれも耐久年数は100年といわれる

1999年 茨城県東海村・JCOウラン加工工場臨界事故:国際評価レベル4

東電福島第一原発事故以前におきた日本の重大事故として、JCO臨界事故があります。核燃料加工会社JCOで、大量の放射能を浴びて作業員2名が死亡、約31万人が屋内退避しました。

核燃料をつくる過程でウラン溶液が臨界に達し、核分裂連鎖反応が起きて中性子線、ガンマー線が放射されました。

環境省「<a href='https://www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/attach/201510mat1-02-08.pdf' target='_blank' rel='noreferrer'>放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料</a>(平成26年度版)」 第2章 事故の状況/国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)原子力百科事典ATOMICA「<a href='https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_04-10-02-01.html' target='_blank' rel='noreferrer'>核燃料サイクル施設の事故・故障</a>」「<a href='https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_02-07-02-04.html' target='_blank' rel='noreferrer'>原子力発電所の事故・故障</a>」を参考に作成
環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成26年度版)」 第2章 事故の状況/国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)原子力百科事典ATOMICA「核燃料サイクル施設の事故・故障」「原子力発電所の事故・故障」を参考に作成

東電福島第一原発事故

国際評価でもっとも深刻なレベル7の大事故

2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。東電福島第一原発は、地震によって外部電源が失われ、その後津波により全電源が喪失。原子炉3基で冷却機能が失われ、炉心が溶け出し(メルトダウン)、1号機、3号機、4号機が爆発して大量の放射性物質が放出されました。

原子力施設の事故の深刻度を示す国際評価は、チェルノブイリ原発事故と同じ「レベル7」。推定で4〜90京ベクレルの放射性物質が放出され、7〜8割が海へ、残りが陸へ拡散しました。深刻な放射性物質の拡散状況であったにも関わらず、事故発生当初、周辺住民への避難指示は限定的なものでした。3月11日時点で3km圏内、12日に10km圏内、15日に30km圏内に屋内退避指示が出されました。大量の放射性物質が流れ込んだ飯館村に避難指示がだされたのは4月22日でした。福島市、郡山市なども深刻に汚染されましたが、避難指示がでることはありませんでした。

東電福島原発事故による、放射線の広がりを表した地図(早川由紀夫教授による放射能汚染地図)
東電福島原発事故による、放射線の広がりを表した地図(早川由紀夫教授による放射能汚染地図)

終わらない汚染。除染費用20兆円超という試算も

除染廃棄物や除染土は、1,600万~2,200万m3と推計されており、東京ドーム約13~18杯分に相当します。除染費用だけで総額で20兆円かかるという試算もあります。

しかし、福島県の7割を占める森は、道路から20mまでしか除染されません。除染されていない森には事故発生直後に降り注いだ放射性物質が溜まっていて、いわば貯蔵庫の役割を果たしています。森林に降り注いだ放射能は、雨や台風によって低地へと移動します。一度除染された場所でも、ひとたび大雨が降れば再汚染がおこります。セシウム134が半分になるまでに約30年、1000分の1になるまでに300年かかります。汚染には終わりはありません。

グリーンピースでは、事故発生直後の2011年3月に放射線調査をする国際チームを結成し、以降現在まで継続的に放射能汚染の実態調査をおこなっています。

高すぎる被ばく限度、奪われる避難の権利

東電福島第一原発事故が起きるまで、一般人の被ばく限度は年間1ミリシーベルト(以下mSv)でした。しかし政府は、避難指示解除の基準を一般人の被ばく限度を20倍の20mSvとし、年間1mSvを「長期目標」としました。

政府は除染対象地域の除染が完了した地域から避難指示を解除し住民の帰還を進めていますが、グリーンピースの調査では、避難指示が解除された地点でも、年間1mSvを上回る結果が出ています。除染が完了した地域も、大雨のあとには流れてきた土によって再汚染されたり、空間放射線量が著しく高いホットスポットが生まれたり、放射線量が変化することがわかりました。

グリーンピースの調査結果が示すのは、避難指示が解除された地域でも、日常生活を安全に過ごせるとはいえない放射線状況が継続している場所があるという事実です。

避難指示が解除された地域の住民には賠償金は支払われなくなり、帰還しないことを選んだ住民は自費で避難生活や移住をしなければいけません。住民が避難をする権利が侵害されています。

グリーンピースでは、被災者12人の10年間の歩みと思いを綴ったサイト『写真と証言で綴る12人の10年 福島の記録』を作成し、事故を経た福島での暮らしについてインタビューしているほか、原発事故を踏まえた反省や未来への思いを6名の専門家の方に伺いました。

廃炉最大の課題「放射能汚染水」

東電福島第一原発における大きな課題となっているのが「汚染水問題」です。燃料を冷やす水や地下水が放射能汚染水となって増え続けており、2021年時点で敷地内に125万トン以上貯蔵されています。

この放射能汚染水は、放射性核種除去装置(ALPS)などを使って処理されていますが、処理後もALPSでは除去できないトリチウムや、除去しきれなかったストロンチウムなどが大量に含まれています。除去できない放射性核種には、炭素14という半減期が5730年という長寿命のものも含まれています。

放射能汚染水の処分方法について、漁業関係者や多くの市民が反対するなか、2021年4月、日本政府は海洋放出を閣議決定しました。これは、現在も事故の影響で苦しむ福島の人々に追い打ちをかけるものです。政府は放射線のリスクを軽視し、「原発敷地内や周辺地域に十分な貯蔵能力がある」という国の小委員会での議論を無視しています。グリーンピースは今後も放射性廃棄物の太平洋への放出をさせないよう取り組んでいきます。

東電が放射能汚染水を流してはいけない理由はこちら

福島第一原発内に保管されている汚染水
福島第一原発内に保管されている汚染水

日本の原発の状況と建設計画

東電福島原発事故後、全国の原発は徐々に稼働を停止し、2014年にはすべてが停止しました。再稼働には、事故後に作られた原発の「新規制基準」への適合を認められる必要があります。2015年以降、複数の原発が新規制基準の審査を受け、稼働を再開しています。現在日本には30基以上の原発があり、さらに新たに3基が建設中で、6基が建設準備中の段階にあります。

全国の原発は、それぞれに問題を抱えています。関西電力は福井県の地元会社から金品を受け取っていたことがわかり、新潟県の柏崎刈羽原発は、中央制御室への不正入室を始めとする不祥事が明らかになっています。宮城県の女川原発は東日本大震災で被災し、原子炉建屋の1130カ所でひびが見つかりました。静岡県の浜岡原発は、予想される東海大地震の震源域の真上に位置しています。ほかにも、活断層の有無や火山灰の届く範囲かどうかなど、調査中の原発も多くあります。

こうした状況を受け、ほとんどの原発に対して、住民らによる運転の差止めなどの訴えが起こされています。2014年に福井地裁が大飯原発3、4号機の運転差し止めを、2015年に福井地裁、2016年に大津地裁が高浜原発3、4号機の運転差し止めを、2017年には広島高裁が伊方原発3号機の運転差し止めを決定しています。上級審で覆される例が多くあるものの、こうした司法判断は世論に大きな影響を与えてきました。2020年12月には、大飯原発3、4号機について設定許可の取り消しの判断も出ています。

日本原子力産業協会 「<a href='https://www.jaif.or.jp/cms_admin/wp-content/uploads/2021/02/2021-01.pdf' target='_blank' rel='noreferrer'>原子力発電所の運転・建設状況</a>」、産総研「<a href='https://gbank.gsj.jp/activefault/search' target='_blank' rel='noreferrer'>活断層データベース</a>」、地震調査研究推進本部「全国地震動予測地図2010,2012」を元に作成
日本原子力産業協会 「原子力発電所の運転・建設状況」、産総研「活断層データベース」、地震調査研究推進本部「全国地震動予測地図2010,2012」を元に作成

脱原発へ舵を切った国々

東電福島第一原発事故を受けて、あらためて、スイス、ドイツ、台湾、韓国が脱原発に舵を切りました。ドイツは2022年までに全廃を予定しています。イタリア、オーストリア、オーストラリアは東電福島原発事故以前から脱原発を決定、現在まったく原発は利用されていません。また、国として脱原発を掲げたわけではありませんが、ベトナムでは2016年に南部での原発建設計画が撤回されているほか、アメリカでは寿命を待たずに閉鎖される原発も出てきています。欧州や北アメリカでは原発の設備容量はほとんど伸びていません。

出典:<a href='https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/nuclear/sekainonuclear.html' target='_blank' rel='noreferrer'>資源エネルギー庁</a>、<a href='https://www.jaero.or.jp/sogo/detail/cat-01-12.html' target='_blank' rel='noreferrer'>日本原子力文化財団</a>、「<a href='https://www.swissinfo.ch/jpn/%E7%A6%8F%E5%B3%B6-%E5%8E%9F%E7%99%BA%E4%BA%8B%E6%95%85-%E7%AC%AC1-10%E5%B9%B4-%E5%8E%9F%E7%99%BA%E6%94%BF%E7%AD%96-%E8%84%B1%E5%8E%9F%E7%99%BA-%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9/46439804' target='_blank' rel='noreferrer'>swissinfo.ch</a>」を参考に作成
出典:資源エネルギー庁日本原子力文化財団、「swissinfo.ch」を参考に作成

原発ゼロ、自然エネルギー100%の社会へ

危険を伴い持続可能性のない原子力の利用をやめ、自然エネルギー100%の未来へ向けて舵をきることが、東電福島原発事故を経た日本が取るべき唯一の姿です。日本は現在、「原発依存度をできるだけ低減させる」としながらも、原発は「重要なベースロード電源」と位置づけています。「自然エネルギーはコストが高く、不安定で、扱うことが難しい」という従来の考えから脱却し、「自然エネルギー100%」を実現するにはどうすればよいかを考えるべき時が来ています。

2020年、EU27カ国全体で総発電量に占める自然エネルギーの割合は38%に増加し、37%に減少した化石燃料を初めて上回り、最大電源となりました。一方、原子力はシェア25%に減少しました。これはすでにEUが、自然エネルギー中心のエネルギー構成にシフトしたことを意味します。自然エネルギー導入先進国のオーストリアは、2030年までに自然エネルギー100%を掲げ、2020年に既に欧州で最も高い自然エネ比率79%を達成しています。そして同国は国際原子力機関(IAEA)本部を首都ウィーンに擁しながらも、前述の通り原発廃止国でもあります。送電線のシステムの違いなど日本独自の課題もありますが、EUによるこのニュースは、日本の進むべき道を明るく照らしています。

福島で自然エネルギーの利用を促進するためのプロジェクトの一環で、大河原さん夫妻が運営するコミュニティカフェ「えすぺり」の屋根に、太陽光パネルを設置しました。これはクラウドファンディングに参加してくれた市民の出資によって実現しました。
福島で自然エネルギーの利用を促進するためのプロジェクトの一環で、大河原さん夫妻が運営するコミュニティカフェ「えすぺり」の屋根に、太陽光パネルを設置しました。これはクラウドファンディングに参加してくれた市民の出資によって実現しました。

私たちに今すぐできること

action1

自然エネルギーに切り替える

原発に依存する大手電力会社から、自然エネルギーを供給する電力会社へと切り替えることは、誰にでも始められる重要な行動です。自宅や事務所で自然エネルギー100%の電力会社に切り替えれば、毎月の電気代が、そのまま自然エネルギーへの投資に繋がります。

未来をつくる電気の選び方として、自然エネルギーの電力会社をまとめているプロジェクトもあります。

グリーンピースも参加する、クリーンな電力会社がわかる「パワーシフト」HPはこちら

action2

周りの人に情報とビジョンを伝える

東電福島原発事故から10年以上が経ちました。記憶を風化させず、原発事故を知らない若い世代にも東日本大震災の記憶や経験を伝えていく必要があります。原発の再稼働についての世論調査では、反対が賛成を上回っているものの、反対・慎重な意見は年々減りつつあります。原発の危険性や本当のコストを伝えていかなければ、原発政策についての世論を変えることはできません。

脱原発へと舵を切ったドイツやオーストリアの事例が示すのは、草の根の市民活動なくして改革はありえなかったという事実です。国や企業、組合など、力を持った組織を動かすことは容易なことではありません。しかし、中長期的な視点でみれば、時間を要しても、個人から個人へと「原発のない、安心して暮らせる社会」「少しでも良い状態で次世代に手渡せる未来」というビジョンを繋いでいくことは大きな意味を持っています。

action3

グリーンピースの活動に参加する

グリーンピースは、東電福島原発事故直後から放射能濃度測定をはじめとする放射線影響調査を行っており、現在も調査を継続しています。そして、調査によって得られたデータをもとに、科学的な根拠に基づいて、事故被害の状況を明らかにしてきました。国連の人権保障システム等を通じて原発事故被害者の人権保護を訴え、原発事故被害者はもとより、日本全国の原発立地地域の住民の活動を紹介する取り組みも行っています。

グリーンピースがめざすのは、「原発ゼロ・自然エネルギー100%」。すべての原発を止め、持続可能なエネルギー社会の実現です。

ぜひ、グリーンピースの活動にご参加ください。

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