9月15日をもって、グリーンピース・ジャパンの事務局長を退任することになりました。就任から1年余りの短い期間でしたが、内外、様々な方々に支えられて参りました。大変お世話になりました。

 

日本に住むのは大学在学時以来で、アジア、アフリカで開発・緊急援助の活動に従事してきた私にとって、この1年は自分の母国を再発見する年にもなりました。

 

途上国から先進国に活動の場を置くことで、新しい視点を得ました。どんどん変化していく世界経済。特に、IoTやAIなどの技術革新に支えられて、エネルギー分野で飛躍的に伸びている自然エネルギーや、急速にガソリンから脱却していく自動車業界には期待と興奮を覚えます。

 

自動車、自転車や居住スペースを所有するのではなく共有するという、シェアエコノミーと言われる新たなビジネスのあり方。ヨーロッパで進む循環型経済への動き。大量生産大量消費を前提とした、安定性のある重厚長大な産業が優越を誇っていたのは一昔前。今は、地球環境の限界の中でスマートに持続可能に展開できるビジネスが台頭しています。

 

時代の先を読み、軽快に柔軟に時流に乗って動くことができるビジネスこそ、成功し、新しい時代を開いていくということ。そしてもはやこの流れは止められないということ。それは、外資に頼りメガプロジェクトに牽引される形で、経済成長の数値目標を達成し中進国になろうとする途上国にいた時には見えなかった新しい現実でした。実態経済は、パリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)といった政治的なコンセンサスが形成されるのを待たず、その先を行っているというのは、新鮮な驚きでした。

 

その一方、日本に住んで、このままでは日本は新しい潮流に乗り遅れてしまう、という危機感をこれまで以上に強く抱くようになりました。

 

世界が化石燃料から脱却しようとしている時に、時代錯誤的な石炭火力発電所の増設計画。東電福島第一原子力発電所の事故によって、ドイツや台湾、韓国が次々と脱原発に向かう中で、従来のエネルギー政策を堅持しようとする日本政府は、当事国でありながら現実から目を背けているように思います。

 

昨年の放射能調査に協力してくださった飯館村の方々を訪ねた時、故郷を思う気持ちと失ったものは取り返せないという残酷な現実の間での葛藤を垣間見た思いをしました。それなのに、国は事故の影響を過小評価し、帰還政策を進め、事故を過去のものにしようとしています。民主主義の根付かない途上国と変わらないじゃないか、と愕然としました。

 

私たちの食卓に馴染みのあるウナギやマグロなどの魚が絶滅危惧種に指定され、世界的に漁業資源の枯渇が指摘されているという現実からも、日本は目をそらせています。ノルウェーやニュージランドでは、乱獲を取り締まり漁業の管理を向上させることで漁業を成長産業に変革しているといいます。その一方で、世界有数の水産資源消費国である日本は、全体的に漁獲量が年々下降している責任を他国による乱獲のせいにして、痛みを伴う改革に及び腰です。豊かな海無くしては、衰退していく漁業を豊かにすることはできないのに。

 

日本人は食品の安全と健康志向に関してはとても敏感だと思っていたので、日本が中国や韓国に次ぐ世界第3位の農薬大国だと知ったのは、衝撃でした。西欧諸国では有害の可能性がある化学薬品の使用は規制されているのに、日本では有害であることが証明されないと規制がされないと知れば、日本の規制は誰を守っているのだろうと思います。ラオスに住んでいた頃、過度の農薬使用によって、中国企業が経営するバナナ農園近くの川には魚もすまないと聞き、恐ろしくなりました。こうした企業は、耕作地は借地で手に入れ、土地の生産性が落ちれば他に移るという無責任な農業の経営をしています。土地と自然を豊かにできなければ、本当の意味で農業は豊かにならないのに。あまりにも都市と農村が別世界のようになってしまうと、そうした感覚も鈍ってしまうのかもしれません。

 

先頭を切って変化をリードしていくことができない日本。社会にはびこる、ことなかれ主義。グリーンピースの仕事を通じて、日本の抱える社会問題の奥深さを感じました。東北大震災の直後に帰国した折には、絶望的な状況ながらもここから大きな社会変化が起こるという期待が持てました。6年後の日本に戻り、課題の大きさを改めて実感します。

 

でも、だからこそグリーンピースのような団体の存在意義があると信じています。グリーンピースの職員ひとりひとりが持つ鋭い問題意識や強い信念、活動に取り組む真摯な姿勢や行動力には、良い刺激を受け、勇気をもらいました。また、日々の暮らしの中に環境への配慮を取り入れ、持続可能なライフスタイルを実践している同僚と触れ合うことで、私自身、新しい習慣や視点を取り入れるようになりました。

 

環境破壊の現場から、独立の立場で、事実に基づき、声をあげること。国際的なネットワークに支えられ、日本の市民団体として、市民の力で社会を変えていくこと。そうした理念に共感する素晴らしい同僚やサポーターの方たち、目的を共にする他団体の方々と巡り会うことができ、この1年を一緒に過ごすことができました。深い感謝の念を胸に、グリーンピースを退任します。今後の成功と発展を祈りながら。

グリーンピース・ジャパン 事務局長 米田祐子