元ドミニカ環境大臣のアサートン・マーチン氏は、19日、東京都内で開かれたセミナーで講演し、「日本からの援助は地元の漁業と伝統を破壊している」と語り、日本の水産無償援助金(注1)がドミニカ経済へ与えている影響と実態を報告した。同氏はまた「わたしの国の政府が国際捕鯨委員会(IWC)で捕鯨推進派に加担していることで、国の基幹産業(注2)である観光業が危機にさらされている」と、捕鯨再開のために日本が行っている票買い活動を批判した。


マーチン氏(写真右)によると、ホエールウォッチングなどドミニカの自然資源を活かしたエコツーリズムへの欧米からの観光客が、同国がIWCで捕鯨推進側に立っていることを嫌って、激減する可能性があると言う。マーチン氏は、1979年、ドミニカの農業大臣、2000年に農業・計画・環境大臣を務め、現在、カリブ自然保護協会会長。 2000年のIWCで日本の票買い外交は自国の利益を損ない、貧困に陥れるものとして環境大臣の職を辞任して抗議している。

「くじラブ講演会」と題した同セミナーは、クジラと人間の本当の共存のありかたを探そうとグリーンピース・ジャパンが始めた「くじラブキャンペーン」(注3)の一環。今月28日から米国・アンカレッジで開かれる第59回IWCを前に開催されたもの(注4)。

グリーンピース・ジャパン事務局長の星川淳もセミナーでマーチン氏と対談し、「外国からの批判が強い捕鯨に、日本人がナショナリステイックな感情だけで対応しているうちに、実際にはODA植民地主義ともいうべき事態が展開している」と語り、「私たちの税金が援助先でどのように使われているのか、しっかり見つめたい」と結んだ。

セミナーの最後には、アカデミー賞短編アニメーション部門ノミネートなどアニメーション界第一線の山村浩二監督制作による作品、「校長先生とクジラ」が初公開された。この2分のアニメーションは、戦後の食糧難の時期に鯨肉で飢えを凌いだ初老の小学校校長が、浜に打ち上げられたクジラを生徒たちと一緒に救うというもの。1月にネット上で放送されたTV番組「くじラブ・ワゴン」に続く、くじラブキャンペーン第2弾作品。

山村浩二氏は、「“みんなで力を合わせてクジラを助ける”という行動を、違和 感なく自然に表現することが出来たと思う」と、語っている。

「校長先生とクジラ」は、19日より2週間、東京と大阪の16の映画館でシネアドとして上映され、ケーブルテレビのアニマルチャンネルとディスカバリーチャンネルのコマーシャル枠で放送される。

注1:1993年から2006年まで総計約50億円。ドミニカの国家予算(2007年現在)は年間約2億5000万米ドル(約300億円)

注2:EUはアフリカやカリブ海諸国など旧植民地産のバナナに優先的に無関税輸入枠を設けていたが、これをアメリカがWTOに提訴。WTOは97年にEU敗訴の裁定を下した。EUは2001年、従来の措置を改め、2006年より全面的な関税化に移行。これによりドミニカのバナナ産業は大打撃を受け、以降、観光がドミニカの主要産業となっている。

注3:くじラブ・キャンペーンサイト

注4:「第59回国際捕鯨委員会に向けてのグリーンピースの考え方」

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海洋生態系問題担当部長 佐藤潤一
広報担当        城川桂子