気候変動は男女関係なく全人類に等しく降りかかる問題で、ジェンダー平等は関係ないように感じませんか?

実は「気候変動による被害」と「気候変動解決」の両方にジェンダーとの関連性が指摘されています。* どのような関連性があるのでしょうか?

気候変動による影響は男女平等ではない

自然災害が発生した際、女性※1 は男性と比較してより大きな被害を受けることが分かっています。*

例えば…

  • 自然災害時に女性が命を落とす確率は男性よりも14倍も高い。
  • 今まで気候変動によって難民化した人々の80%が女性
  • 1991年にバングラディシュで発生したサイクロンでは、  女性は泳ぎを教わる文化がなかったため、 犠牲者の90%以上が女性だった。
  • 世界の貧困人口の約70%は女性のため、 自然災害で地域が壊滅的な被害を受けた後では女性の方がより社会復帰しづらい
  • 自然災害発生時には、レイプ、 女性と子どもの人身売買、妊産婦死亡率、家庭内暴力のすべてが増加傾向にある。

などです。

気候変動が悪化するに伴い、大規模な自然災害が頻発することが予測されています。女性は気候変動の影響を強く受けるといえます

フィリピン中部と南部を襲った台風パブロの被災者(2012年12月)

なぜ女性の方が気候変動の影響を受けるのでしょう?

1981年~2002年の間に国連開発計画が141カ国の自然災害による死者数を調査した結果※2 では、女性の経済状況と社会的権利が男女の犠牲者数にダイレクトに影響しており、男女格差が大きい国ほど女性の死者が多いという結果が出ています*

この背景には、男性優位社会の中で、女性は水泳や運転などを学ぶ機会がない子どもや高齢者のケアをする役割から避難が遅れる外出時に男性の許可が必要など、様々な理由があります。

バンコク北部郊外のノンタブリー県での洪水で救助された女性(2011年11月)

意思決定の場に女性が多いほど環境対策が進む?

女性のリーダーシップと環境保護の成果には明確な関連性があることが分かっています。130カ国を対象とした調査* によると、女性の議会代表が多い国ほど国際環境条約を批准する傾向が強くありました。 

また、女性議員の数が10%増加すると、 一人当たりの二酸化炭素排出量が0.24トン減少することが明らかになっています。  より多くの女性が気候変動に関する議論に参加することが効果的な対策に有効なようです。*

歴代最年少の34歳でフィンランド首相に就任した女性、サンナ・マリン氏です。

2021年のCOP26では、フィンランドが2035年にネットゼロを達成するという野心的な削減目標を提示しました。フィンランドは女性が閣僚ポストの半数以上の61.1%を占める国で、首相は歴代最年少の34歳で首相に就任した女性、サンナ・マリン氏です。

一方で、岸田政権は閣僚に占める女性の割合は15.0%となっています。

現在の意思決定の場は、気候変動の影響を最も受けない層が過半数

男性は女性と比較すると気候変動の影響を受けにくいにも関わらず、気候変動対策など重要な意思決定は多くが男性で構成されており、ジェンダーの視点や気候変動の影響を受ける人々の視点が取り入れられていません。

女性を議論の場により多く参加させ、男性以外の視点を取り入れることは重要です。また女性のリーダーシップと環境保護の成果には関連性が見つかっていることからも、意思決定の場で女性と男性の割合を平等に保つことは気候変動対策を進める上で有効と考えられます。

日本はジェンダー格差が大きな国

日本のジェンダーギャップ指数は121位、G7最下位です。*

日本では、災害時に女性の方が圧倒的に被害を受けるほどのジェンダー格差はないかもしれませんが、気候変動のみならず、ジェンダーの視点をあらゆる政策を考える上で取り込むことは非常に重要なことです。

最近では、2021年11月の衆議院選挙で、新潟5区から無所属で初当選を果たした前新潟県知事の米山隆一氏の「ジェンダー平等・気候変動を(政策として)一番に打ち出すと、『余裕のある人の趣味』に見られてしまうので」という発言が物議を醸しました。*

気候変動の問題、ジェンダー平等の問題は果たして「余裕のある人の趣味」でしょうか?経済や雇用などに全く関係がないのでしょうか?

1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから、女性も男性と同じように働く機会はありますが、残業や転勤ありきの従来の働き方は撤廃されず、女性の受け皿として一般職が作られました。パートなど非正規雇用の賃金は、パートナーの男性が稼ぐことを前提に低く抑えられたままです。*3

このような社会のあり方でリスクを抱えているのは、女性だけではなく、男性も同じです。過労やストレスによる精神疾患などは後を立ちません。

また、気候変動の問題は、経済・雇用・外交・命の安全、すべてに関わる問題です。ジェンダーの視点を取り入れ、気候変動の悪化を止めるため男女が等しくこの問題の解決に向けて取り組むことが求められます。

※1 ジェンダーは バイナリーではない:性別は一般的に男性と女性に分かれます。 しかし、それは生物学上の話で、 性別認識であるジェンダーは自分自身が決めるものです。 性はグラデーションで、二者択一ではありません。  自分が女性かどうかは自身で決めるものですが、 文化や社会から強く”女性としての役割”と決められた役割や “女性でいること”を強いられている人々も多くいます。  また、生物学上の性が女性というだけで、経済的自立やキャリア形成などに大きな困難を 抱える人が多い社会構造は未だに拭いきれていません。 気候変動はこのようなジェンダー格差にどのように影響を及ぼしているのかをこの記事では取り上げています。

※2 United Nations Development Programme. Overview of Linkages Between Gender and Climate Change. 2015.

※3 笛美『ぜんぶ運命だったんかいーーおじさん社会と女子の一生』亜紀書房、2021年