SIRUPさん、Shin Sakiuraさんとグリーンピース・ジャパンのコラボプロジェクト「Nature Sound Project」の舞台裏をお届けするこちらのスペシャルレポート。

後編では、ドキュメンタリーの映像にはおさまりきらなかった、SIRUPさんとShin Sakiuraさん、小澤果樹園代表の小澤さんのスペシャルインタビューの模様をお届けします。農家とアーティスト、それぞれの領域や肩書きの垣根を超えて共鳴しあう場面も生まれた、貴重な対談の模様をどうぞお楽しみください!

種を植えてから木になるまで10〜15年。超長期戦&奥深すぎるりんご農業

インタビューの始まりは、まず小澤果樹園でとれたりんごで腹ごしらえ。SIRUPさんとShin Sakiuraさんからは「うんま!!」「ばくばく食うてまうわ!」と歓声があがり、りんご片手に、和気あいあいとしたムードでインタビューがはじまりました。

小澤:りんごって切ると種10粒ぐらい入ってるじゃないですか。撒いてうまくいけば10年ぐらいで木になって、更にうまくいけば花が咲いてりんごになります。実は、種の数だけ新しい品種になるんですよ。

SIRUP&Shin Sakiura:ええええ!!!全く同じやつが子どもとしてできるわけじゃないんですね。しかもめちゃくちゃ時間がかかる。

小澤:10年、15年とかかかるんですよ。父もりんご農家なんですが、父が僕の小さい頃に撒いたやつが、一昨年ようやくりんごがつきまして。結構ギャンブル性が高いんです。

それからちょっと複雑なんですけど、りんごって根っこと実がなる部分って品種が違うんですよね。「接木」っていうんですけど、それぞれを融合させて1本の木にして育てていきます。

SIRUP:めちゃくちゃ面白い。俺たちの身近なりんごがそんなことになっているとは……。

Shin Sakiura:うん、りんごってめっちゃポピュラーやから、勝手に作りやすい果物ってイメージがあったけど、実はものすごい努力の積み重ねのおかげで、こうして食べられているんですね。知らなかった……

気候変動で変化する自然環境。リスクと向き合いながらも、次世代にバトンを渡したい

小澤:病気や虫、気温は、販売しうるに耐えるクオリティのものを育てるうえではシビアな問題です。昔よりも流行りやすい病気があったり、カメムシとか、昔はそんなに発生しなかった虫が、年回りによってすごく増えたりすることはあります。

SIRUP:温暖化が原因で、もう食べられなくなってしまった品種もあるんですか。

小澤:現状そこまで危機的な状況ではないけれど、同じ長野県の中でも南の方は大町よりもそもそも暖かい地域なので、色々と問題は出てきているみたいですね。りんごっていつから取れるか知ってます? 

SIRUP:え、全然わからない。

小澤:なんとなく、秋の果物ってイメージがありませんか?

Shin Sakiura:たしかに。

小澤:りんごって今、8月から収穫できるものもあるんです。でも、いま夏場って本当に暑いじゃないですか。長野も年々気温が上がっていて、30℃を超えると太陽の熱射がりんごにとって大きな課題になります。8月に取れる伝統的な日本の品種があるんですけど、それが一部の長野県地域だと暑さに耐えきれなくて、栽培が難しくなってきているって話はありますね。

SIRUP:ただでさえ木を1本育てるのに何十年もかかるわけじゃないですか。リスクの高いことだって覚悟があったとしても、何年もかけてやってきたことが、環境変化のせいで無になってしまうって切ない。いや、切ないって言葉じゃ片付けられないですよね。

小澤:台風で育てていた木が全部折れてしまったことも実際にありますし、覚悟決めて、自分の熱量も高くやってるので、当然ショックは受けます。でも、出来る限りどっしり構えてやれることはやりたいし、その姿を子どもたちや次の世代に見せたいですよね。

僕は、自分の仕事はこれですって伝えるだけじゃなくて、それを次世代にちゃんとバトンタッチしなきゃいけないと思ってます。自分はそういう立ち位置にいるってずっと思っていて、親父が僕に渡してくれたみたいに、僕も自分の子どもやいつか農園をやってみたいって人たちに、何か渡していきたい。それはいつも意識していたいです。

積極的に行動することで、自分がやりたいことを未来に残す

SIRUP:次の世代のためにって考え方、僕もすごく共感しますね。Shinちゃん(Shin Sakiuraさん)なんかは、ライブや制作時にやっていることの解説動画とかを今Youtubeで積極的に発信してるんですけど、そうやって広げることによって、自分たちのやりたいことが深く、太くなると思っています。これから音楽やりたいって人が、Youtubeを見て、そこから新しく何かをつくるっていう土台を作ることが大事なんですよね。

Shin Sakiura: 音楽を作る側が、どういうことを考えていて何をしているか、面白さとか醍醐味を知ってもらうアクションをしっかりして、層を厚くしていくことが、10年とか20年後とかにレベルの高い仕事を残していくことにも繋がると考えるようになりました。

そこからYoutubeとか、色々自分で行動するようになりました。自分のスキルやノウハウを人に簡単に教えたらあかんのちゃうって思っていた時期もあったんですけどね。コロナ禍を経て、今は自分を含め、音楽を作る行為を愛している人たちが、楽しく暮らせるようにするためにはどうしたらいいんだろうってことを、意識していて。だから小澤さんの次世代につなぐって視点にはすごく共感します。

SIRUP:僕も自分の好きなR&Bをもっと根付かせていかないと、そのシーンが分厚くならないなって思うんです。だからやるべきことは、結局自分が喋ること、自分からどんどん発信していくことやなって。

小澤:めちゃくちゃ素晴らしいですね。僕も一般の企業に勤めていたからわかるんですけど、企業秘密って言葉があるように、自社にとって有益なテクニックだから外に出しちゃいけないことって多いじゃないですか。

僕がこの業界に入ってすごく驚いたのは、コミュニティの中でみんなの知見を共有する文化があるんですよね。農薬や肥料、気候の話も、お互いの知らないことを補って議論することが昔から行われていた業界で。仲間達のそういうあり方はすごく大事だなと思いますし、僕はそこから派生して、地元の小学校とか保育園の食育活動もこの5〜6年、継続的にやってますね。子どもたちに農体験をしてもらって、話をして、りんごを給食で実際に食べてもらうところまでやって。誰かひとりにでも伝わってくれればいいなって思ってます。

SIRUP&Shin Sakiura:どのお話も本当におもしろかったです。お話できて良かった。ありがとうございました。

盛りだくさんな内容でお届けした「Nature Sound Project」の舞台裏、お楽しみいただけたでしょうか。

お二人が出会った自然豊かな風景や、インタビューで印象的だった「自分が残したいものや次の世代のために、今自分ができることをやる」というそれぞれの熱い想い。それらをふまえて「FOREVER」を聴いてみると、使われているさまざまな音色や歌詞の言葉の意味がまた違って聞こえてくるはずです。

みなさんも、自分がこれからも残していきたい風景や文化、今自分にできることについて思いを巡らせながら、楽曲を繰り返し聴いてみてくださいね。