今日3月11日、東日本大震災、そして東京電力福島第一原発事故の発生から5年がたちました。震災で被災した方々に深い哀悼の意を表します。

私は先月21日、世界中から集まったグリーンピースのスタッフ、科学者や放射線の専門家を含むかけがえのない仲間たちとともに、グリーンピースの船「虹の戦士号」に乗船しました。嶮しく起伏に富んだ断崖絶壁の地形を持つ福島の海岸線を見ながら航行し、帆船の「虹の戦士号」は高い波と強い風に大きく揺れながらも力強く進んでいきました。

環境NGOのグリーンピースで過ごしたこの14年間は、まさに”航海”のようでした。そして今、グリーンピース・ジャパン事務局長の退任を間近に控え、この美しい帆船に乗る最後の機会になると考えると、胸にこみ上げてくるものがあります。

特に、今回の「虹の戦士号」の航行には特別な意味があります。

私が事務局長になってまもなく起きた大震災と原発事故。2011年4月には放射能の海洋への拡散状況を調べようと、当時の「虹の戦士号Ⅱ世」を福島県沖に派遣し、海洋調査を行いました。今でも当時の緊迫した状況を思い出します。その「虹の戦士号」がⅡ世からⅢ世へと代替わりし、福島に戻ってきたのです。そして5年後の今日、その「虹の戦士号」に再度乗船し、この大震災で亡くなられた方々への哀悼のために福島県沖を航行しています。

マグニチュード9.0の地震による津波が東北地方を襲ったのはちょうど5年前の3月11日でした。東日本大震災により、15,894人もの方が亡くなり、今も2,561人の方が行方不明です。この震災により犠牲となられた全ての方々に対し、あらためて哀悼の意を表します。

しかし悲しいことに、この悲劇はまだ終わっていません。東京電力福島第一原発事故によって、14万6,000人もの方々が住み慣れたふるさとからの避難を余儀なくされ、そのうちおよそ10万人の方々が今でも元々住んでいた場所に帰還できていません。いくつかの地域では今なお高い放射線量が継続して測定され、帰還政策を進める政府はありのままの情報を伝えていません。だからこそ私たちは原発事故はまだ続いていて、被害をうけ続けている方々がいることを国内外に訴えるために福島に来たのです。

(写真)海底の土砂や堆積物のサンプル調査を行っている福島第一原発沖の海で、「Never again (二度と繰り返さない)」と書かれたバナーを持つグリーンピースのダイバー(2016年3月)

また、菅直人元首相が「虹の戦士号」に乗船し、福島県沖を一緒に航海する機会を得ました。菅元首相は、乗船されていた2日間、原発事故後の苦難や心境を私たちに話してくれました。未曾有の大災害の中、首相として大きな責任を抱えていたこと。そして、原発事故後の東京電力とのやりとり。東京を含む首都圏の5,000万もの人を避難させなければいけなくなるような重大な危機の中で決断を迫られていた時のこと。刻一刻と変わる状況を最前線で目撃してきた経験が、菅元首相ご自身を原発推進から脱原発へと変えたのです。

(写真)虹の戦士号で福島沖を航行する菅直人元首相。日本のエネルギー政策は、原発から自然エネルギーに舵を切るべきであると改めて訴えた

「虹の戦士号」から見えた2キロ先の福島第一原発は、5年前と同じくらい、悲惨な状態にあるように私の目には映りました。飯舘村や浪江町などの住民が避難している地域では、除染作業で剥ぎ取った汚染土がつめられたおびただしい数の袋が仮置き場や道沿いに並べられています。

しかし、社会の中で原発やエネルギー問題への関心が高まり、市民の力が強まるにしたがって、5年前に始まった原発事故の悲劇が、今も続いているという事実が明らかになってきています。2016年2月には、東京電力の旧経営陣3人が、福島第一原発の津波のリスクに気づいていたにもかかわらず、必要な安全策を取っていなかったことから業務上過失致死罪で起訴されました。そして、除染費用は東京電力が負担していると多くの人が思っていた一方で、福島原発事故の国民負担は電気料金や税金という形で11兆円にものぼるという試算も発表されています。

(写真)グリーンピースの放射線専門家が放射線測定を行っている様子。福島第一原発事故後、飯舘村から避難した農家の菅野晢さん宅にて

しかし、このような悲劇が起きているのは福島だけではありません。2016年はチェルノブイリ原発事故からも30年を迎えます。チェルノブイリでも原発事故の被害は収束してなどいません。

福島とチェルノブイリの原発事故から、原子力発電は過去の産物とし、安全で環境にも優しい自然エネルギーに移行するべきだという教訓を私たちは学びました。福島原発事故から5年、チェルノブイリ原発事故から30年が経つ今日でさえ、この2つの悲劇は今も人々に苦しみを与え続けています。何万もの人が、故郷を離れ、何百万者人が汚染された土地に住むことを余儀なくされているのです。

福島第一原発事故の被害のみならず、地震そして津波によって奪われたかけがえのない命があります。その命に報いるためにも、私たちは自然エネルギーを中心とした新しい社会を築かなければいけません。いま私たち市民が立ち上がれば、福島やチェルノブイリで起きたような悲劇を繰り返さない未来を実現することができるはずです。

グリーンピース・ジャパン
事務局長 佐藤潤一

 

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