持続可能な世界のために〜生物の多様性を育む農業国際会議に参加して

先月、第5回「生物の多様性を育む農業国際会議(ICEBA)2018」に、参加してきました。

この会議は、生態系を基礎とした地域循環型の農業を国内外にひろめることを目指して2010年から、豊中市、佐渡市など生物の多様性を育める農業を試みる地域で開催されてきました。今年は、小中学校の給食のご飯を全量有機米にした千葉県いすみ市で、約500人が参加して行われました。

持続可能な世界のために〜生物の多様性を育む農業国際会議に参加して


工業的農業で失ったものを生態系農業でとりもどす(鼎談から)

有機農業、無農薬や自然栽培、を可能にしているのは、生物多様性の力。でも農業自体が化学農薬や合成肥料で土の中の微生物や周りの生態系の豊かさが失われ、それらに支えられている野生の生き物たちも姿を消していきました。

その背景には、集約的な農業を推奨し、輸入の枠を広げてきた日本の農業政策があり、延長線にはさらなる輸入自由化や規制緩和を推し進めるTPPがある、という構造的な問題が、鼎談で取り上げられました。

そして、「だからこそもういちど、農業の側から生物多様性を取り戻していこう、それが生物多様性といつも共にあった農業の役割であり、それはSDGのめざす目標でもある」ということが共有されました。

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危機感から行動へ

そして具体的な行動目標としてつぎの5つが提案されました。

✩ 持続可能な農業の基盤として生物多様性が果たしているメカニズムの解明

✩ 近代農業によって姿を消した生きものを復活させる農法への転換

✩ 生物の多様性を育む圃場管理に取り組む農業者の育成

✩ 地域の風土やコミュニティに根差した循環型農業システムの構築

✩ 生物の多様性を育む農業による安全・安心な農作物の安定供給 

 これらの目標にそって、分科会でさらに話し合いがすすめられました。

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ネオニコチノイドの使用中止も呼びかけ

分科会では、ネオニコチノイド系農薬の使用も、生物多様性にたいする重大な脅威の一つとして取り上げられました。

私が参加した分科会(生きものを育む農業技術)では、除草剤をつかわずに雑草の発芽を抑える技術や、田んぼに米ぬかをいれて水の中の生物相を複雑にして害虫を防ぐ技術が紹介されました。こうした技術は、各地で継承され年々着実に広まっているそうです。

一方、一般の田んぼでは、ネオニコチノイド系農薬やフィプロニルなどの農薬が苗箱に使われるようになった頃から、害虫を食べるクモやカエルなどが減り、逆に斑点米の原因になるカメムシが増えているという問題も取り上げられました。

それによって農薬空中散布が増えて、生物の多様性がますます失われてきている、という現状に、ネオニコチノイド系農薬やフィプロニルなどの使用を早急に止めるべき、と強調されていました。

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(C)Greenpeace

コウノトリの住める田んぼとは

分科会では、野生の最後のコウノトリが生きていた豊岡市や、地元いすみ市から、そしてブータンやフィリピンからの報告もありました。

豊岡市で無農薬農業に14年前から取り組んでいる成田さんは、田んぼの生きものが増えるにつれて、病害虫の発生が抑えられることを実感しているといいます。

点から面へ。地域全体でもういちどコウノトリの住める田園の回復をめざして農薬を極力控えた農業に取り組んだ結果、人工飼育で放たれたコウノトリは、今100羽に増えているそうです。そのお米は「コウノトリ育むお米」としてブランド化され、食味でも優秀な成績で、関西圏ではスーパーマーケットのライフなどでも販売されています。

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地元いすみ市が無農薬栽培を手がけ始めたのは2013年。翌年からは民間稲作研究所のサポートを受けながら体系的に有機稲作の実践をはじめました。

最初に手探りで無農薬の米作りをはじめた矢沢さんは、農家の声を取りれて、市が「学校給食を全量有機米にする」という目標を掲げたことで勇気づけられ、参画する農家も増えていった、といいます。共通の方針を打ち出す重要性と効果が実感できるエピソードですね。

そして2017年秋には、小中学校の給食で全量有機米が達成され、そのお米は「いすみっ子」というブランドでスーパーのイオンの首都圏の20店舗でも売られているそうです。

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いすみ宣言「里山里海を守る生物の多様性を育む農業」

会議では、生物多様性を育む農業が私たちの世界を持続可能なものにしていくために最も重要な施策の一つであることを確認し、最終日に宣言が採択されました。

宣言では、今回はじめて、ネオニコチノイド系農薬の問題も取り上げられ、「生態系を破壊する長期残効型農薬は、カメムシなど耐性害虫の異常発生を促す要因になっている疑いがあり、直ちにその使用を中止し、地域ぐるみの環境創造型農業、さらには有機農業への転換を呼びかける」ことが明記されました。

このほか、

現在絶滅の恐れがある多くの生きものたちの生息保全には、様々な生きものが生息する水路や水田での湿地環境の復元が欠かせないこと、

多くの生きものが住みやすい水田環境の復元活動とその活動を支える法的・社会的な仕組みづくりを推進すること、

学校給食100%地元産有機米化の取り組みをはじめることによって、新規就農者の増加を含めた地域資源循環型社会の発展と地域づくりの展望を開こと、

などが盛り込まれました。宣言本文はこちら

新米を目にし始める季節、異常な猛暑の影響や台風の影響も心配です。

ネオニコ不使用や無農薬、有機栽培のお米づくりは全国で進んでいます。

Yearly Harvest at Ecological Rice Farm in Japan. © Viktor Cibulka / Greenpeace
より安全なお米まであと一歩!

お米にムダに農薬を使わせる制度を見直してください

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