子どものころよく家族で水遊びしたけやきの森。「なんの不安もなくこうした自然の中で遊ぶことに抵抗を感じるようになったのが悲しい」(佐藤さん提供)
子どものころよく家族で水遊びしたけやきの森。「なんの不安もなくこうした自然の中で遊ぶことに抵抗を感じるようになったのが悲しい」(佐藤さん提供)

グリーンピースを寄付で支えてくださっているサポーターさんの中には、東京電力福島第一原発事故の影響をうけている方もおられます。そんな皆さんの、事故前や事故後のいろいろなご経験を伺うこともあります。そしてそのたびに、原発事故は2度とあってはいけない、という思いを新たにします。
今回は、福島県にお住まいの佐藤真実さんのお話を伺いました。

▼この記事を読むとわかること

> 故郷は、環境や人間関係が折り重なって形成された、いまの自分の歴史。それが失われた。
> 現在進行形で、心だけでなく人格全体に影響する原発事故
> 被災した身としてできる役割や使命

故郷は、環境や人間関係が折り重なって形成された、いまの自分の歴史。それが失われた。

仙台の専門学校を卒業して、福島の実家に戻ろうという矢先でした。

原発が爆発したという速報が放送されても、どこにいけば安全なのか何も情報がなくて。とにかく家を出た方がいいと判断して家族は親戚の家に避難しましたが、父は犬を置いていけないからと残り、私は仙台にいて、一時は一家が離れ離れになりました。

福島県南相馬市、罹災証明書発行の申請に窓口を訪れる被災者(2011年4月4日)
福島県南相馬市、罹災証明書発行の申請に窓口を訪れる被災者(2011年4月4日)

以前は地元への愛着を意識することはなかったんです。海外に留学したいという夢もありました。地元でずっと暮らそうなんて考えてませんでした。

それが19歳で、「安心できる地元」が奪われた。故郷は、環境や人間関係が折り重なって形成された、いまの自分の歴史です。それを失ってまったく別の土地で暮らすということは、自分の歴史的な文脈が絶たれて、何者でもない自分として生きていかなきゃいけない。そのプレッシャーで体調を崩してしまいました。

現在進行形で、心だけでなく人格全体に影響する原発事故

福島県内で(2011年4月)
福島県内で(2011年4月)

中学高校で被災した子の心理的なダメージはもっと大きくて。避難場所を転々として、両親が離婚したり、そこからうつや引きこもりになってしまった子もいます。

他所の人はピンとこないかもしれないけど、3.11ってダイレクトなインパクトだけじゃない。じわじわと現在進行形で、心だけでなく人格全体に影響します。終わってない。続いてるんです。

被災した人の気持ちは、寄り添うのも理解することも難しいと思います。でも、同情してほしいわけじゃない、共感しなくてもいいから、知ろうと思ってくれる気持ちだけで嬉しいです。

12年経って(震災や事故の記憶が)風化するのはしょうがないことだから、そこに抗うつもりはないです。だからこそ自分で発信することが使命だと思います。使命を達成してることを通して、私自身が救われています。

復興五輪とかGX実行会議とか、福島の人はずっと、悲しい国だなって感じてます。結局こんなもんだよねって国に対して投げやりになってしまうのが悲しい。痛みに寄り添えない国は良くなりようがない。自分が強く生きていかなきゃと思っています。

福島県浪江町(2017年)
福島県浪江町(2017年)

被災した身としてできる役割や使命

現実を受け止める強さや生き方が大事で、被災した身としてできる役割や使命ってなんだろうって考えたとき、落ち込んで悲観してる時間がもったいない。国とか政府とか周りに執着するんじゃなく、与えられた人生を深く生きること、自分の魂を揺さぶるミッションに没頭して生きていきたい。

それは3.11がなければ味わうことがなかった感覚です。自分だからこそ立てられるアンテナを立て続けて、私なりに言葉にして発信していきたいです。

福島のためにとグリーンピースに寄付をしてくれてる人もいると思います。感謝しかありません。

これだけ時間が経って「被災者」って一括りに縛られたくない人もいますが、私は、被災者の声を拾い続けてほしい。対話によって、その人の経験が社会に一石を投じることが、その人自身の力になることもあります。

グリーンピースには、このままじゃいけないって、気づきのきっかけになる活動をしてくれたらと思います。

毎年家族で海水浴に来た北泉海岸。震災で周辺の宿泊施設や橋が破壊され、放射能汚染への懸念もあり、海開きに9年の歳月を要した。(佐藤さん提供)
毎年家族で海水浴に来た北泉海岸。震災で周辺の宿泊施設や橋が破壊され、放射能汚染への懸念もあり、海開きに9年の歳月を要した。(佐藤さん提供)

*ご本人のご希望で仮名としています。

原発のない未来をつくるために

今の子どもたちが大人になった社会、次の世代が生きていく社会で、少しでも安全に暮らせるように、”どこかの誰か”がリスクを負うような不条理をなくすために、「原発なし」で二酸化炭素排出実質ゼロを達成することを、政府に求めます。ぜひ、以下のページでご署名をお願いします。

続けて読む